アイテム化

2006年11月26日
彼がいない休日は、いろいろと考えてしまう。とくにさいきん思うのは、「彼は自分が私を物質化して、アイテムのように扱うのはいやがるのに、私に玩具扱いされたがるのは、なぜなのか?。」ということだ。

それに関して、彼がこないだ泣いた夜、本人に聞いた答えはこうだった。


−あなたは私を物質化するのはいやだというけど、私があなたを反応の好い、便利な玩具で道具としか思ってなかったらどうするの?

「それはまだあなたの問題が片付く前にも話し合ったでしょう? あなたにとっては、道端の犬や猫を無視するのも、戯れに撫でるのも同じことでも、ぼくにとっては大違いなんだって。」


わかったような、わからないような。自分がされたいように相手を遇する、というのは、マゾヒストの彼には通じない行動原理なのだろうか。

そんなことを、彼があっという間にチューブを取り替えて直してしまった自転車に乗って、考えていた。

朗読

2006年11月25日
今週は、祝日もあったのに、週末も合わせて、彼は留守。玩具のくせに、私が弄りたいときに玩具箱に入ってないなんて、と、こないだ泣いたのはどこへやら、昨日、まだ旅支度ができていないとわかっているのに、わざと意地悪をする。

私が過去に経験したセックスを書いたテキストをPCに送りつけ、それを音読させる。描かれている行為が激しくなるほどに、読点を少なくし、読めば読むほど息継ぎが難しく、それが動悸を早めるように細工してある。

そんなこととは知らない彼は、まだふつうの間隔で読点が打ってある部分から、興奮で読み間違えたりつっかえたりし始める。それを、同じデスクに並んで、一瞥もしないで、私は聞いている。

二つ、テキストを送ったうち、ひとつを読み終えて、「もうひとつも、読みます?。」という彼に向き直って「ううん、もうひとつは、また今度。」と言うと、彼は困った笑顔で、「…わかりました。」と言いながら、私の頬に触れ、何度もキスをし、服の上から私のからだをまさぐる。


「こんなの読まされたら、ほかのことできないじゃない、もう。」

−興奮した?

「興奮しました。」

−どこに?

「…あなたが足の指を舐められるところと、後ろに挿れられるところ。あと、あなたが前に挿れて欲しいのに、って思ってたとこ。でも。」

−?

「この、相手の人みたいに巧くできないかもしれない、って思う。それに、あなたがうしろに挿れられているとこで、自分が挿れられたいって思ってしまった。やっぱり、ぼく、マゾなんですね。」


私が責められているテキストを読ませたら、私を責めたいという気持ちが強くなるだろうか、と思っての実験だったのだけれど、どうやら、彼がマゾであるということをはっきりさせるリトマス試験紙になってしまったようだ。

「ベッドに行きたい…。」という彼に頷いて、椅子から立つ。まだあたたかくはなっていない、やわらかい布団のなかで、彼と抱き合い、ジーンズのなかに手を滑り込ませて、お尻を掴んで爪を立て、食い込ませる。


「ああッ!」


彼があんまり大きな声を出すので、心配になる。


−痛い?

「いえ、気持ち、いい、です。もっと、もっと爪立ててください。」

−痛くしてるのに、気持ちいいの?

「はい…。気持ち、いい…。」

−変態(笑)

「ごめんなさい。」


そのうちに、デニム地に閉じ込められた狭い空間で爪を立てるのも飽きてきて、彼のアナルに通じるお尻の割れ目をなぞり始めると、抱き合っているからだの間で、彼がどんどん固くなってくる。


−ね、うしろに挿れていい?


そう聞くと、ちいさくうなづいて、うつぶせになり、自分でジーンズをずらす彼。病院でなにかの検査を受けるみたいに、お尻だけむき出しになっているのを、ジーンズを引っ張って完全に脱がせる。

チョコレートの香りのローションを手にとって、彼の背中やお尻に、噛み付くようにキスマークをつけ、呻き声が漏れるのを聞きながら、アナルの周りにぬるぬるしたそれを塗りつけていく。

そして、指を振動させて、ほぐしながら、前回、はじめて指が入ったのは、まぐれかもしれない、と、すこし、不安になる。でも、それは杞憂だった。今回は、ひとさし指は最初から、もう根元まで入ってしまい、抜き差しするたび、彼は女の子のように声を上げる。


「指を、抜かれるときが、気持ちいい、です。」


切れ切れにそう言ったほかは、前回と同じく、中で動かすたびに、開いたままの口からよだれを枕に垂れ流していたらしい。


「トイレ行きたくなっちゃいました。」


そう言われて開放したら、まるで先走りのように粘度のある、ちいさな水溜りが枕にできていた。

それを見て、彼は恥ずかしそうに笑い、ベッドから立ち上がろうとする。と、腰に力が入らず、バランスを崩し、転びそうになる彼。


「ちからが、はいらない…。きもちよすぎて…。」


そんなふうになっている自分が信じられないのか、彼の目は、うつろだった。それから、彼はお手洗いに行き、なかなか戻ってこない。戻ってきたら、「なんだか出そうで出ない…。」という。

私は実は、浣腸などで中身を出してからの行為は、あまり好きではないのだけど、前回もトイレへの衝動で行為が中断したことを考えると、手順を踏んだ方がいいのかもしれない。

そんなことを考えながら、彼のペニスを握っていたら、彼が「ローションつけて、してほしい。」というので、馬乗りになって、見下ろす。また、チョコレートの香りがベッドの上に立ち上る。でも、今度は、さっきアナルを弄っていたときよりも、いやらしい香りだ。


「そんなにしたら、すぐいっちゃう…。」


−だいじょうぶ、いきそうになったら止めてあげる。


「…いじわる。」


−いじわるされたいんでしょ?


「…はい。」


それから何度か、「なんでやめるとこわかるの…。」と、切なそうに言われながら、最初に塗ったローションが乾くまで、しごいたり、やめたりを繰り返す。手が疲れてきたので、ローションを追加して、一気に勢いをつけてこすりあげたら、ものすごい量を出しながら、彼はいってしまった。

おたがい、手を洗ったり、股間を拭いたりして、気づくともう3時近く。


「…準備できてないのに。寝てる時間ないじゃん。」


そう言いながらも、ベッドからなかなか出ずに、私を何度も強く抱き締め、キスを繰り返す彼。ぎゅっと強く背中に回された腕で、彼のからだに押し付けられるたびに、声が出てしまう。


「あなたはぎゅっとされると気持ちいいの?」


そう言われて、なんと答えていいのか、わからなくなる。力を加えられることは、たしかに気持ちいい。なぜなら、私もマゾだからだ。でも、この気持ちよさは、嗜虐のそれとは、すこし違う気がする。彼のわたしへの執着の度合いが、強い力に込められているように感じられることへの、優越感かもしれない。


そして、朝。私を寝かしつけてから、一時間ほど準備をして、寝不足な顔をした彼が、まだまどろんでいる私の髪の毛をくしゃくしゃと撫でて出かけて行った。

次に目が覚めると、携帯にメール。

「いま、新幹線に乗りました。せっかくの週末を寂しくさせてごめんね。ちゃんとインプットを得て戻ってきます。」

インプット。なんのことだろう? サドとしての修行の旅に出たわけでもあるまいし。でも、なんだか、楽しみだ。

飼いならす

2006年11月19日
「あんたが、おれを飼いならすと、おれたちは、もう、おたがいに、はなれちゃいられなくなるよ。あんたは、おれにとって、この世でたったひとりのひとになるし、おれは、あんたにとって、かけがえのないものになるんだよ……」


彼と私の生活は、一見、私が彼を調教し、道具として使っているように思える。けれど、実際に調教されているのは、どちらなのだろう。

彼は、仕事の資料や着替えを取りに、あるいは出張の準備で、ときどき自分の部屋に帰る。これまではそれが、すこしつまらない、ちょっとさみしい、くらいにしか思っていなかったのだが、今日は、自分でもびっくりすることに、「一緒に帰れなくてつまらない。」と言ったとたん、涙がほとばしり出てしまった。

ぐすぐす言いながら、「涙は伝染するのだろうか。」などと考えながら、ひとりでうちに帰る。自分でも、ここまで彼の重要度が自分の中で高まっているとは思っていなかった。数日前に、酔った彼が、私への気持ちを話しながら泣いたのを目の当たりにしたせいだろうか。


こないだの夜、彼は言った。


「ぼくがこれから話すことを聞いたら、あなたはぼくを、嫌いになるかもしれない。」


その時点で、彼の目は真っ赤で、話すうちに涙が落ちる。


「あなたを毎日、マッサージしていて、ぼくがあなたのお手入れをするのは、あなたが気分よくなるのが、自分がうれしいからで… なんていうか、ぼくが自転車を手入れして、快適に動いてうれしい、というような。」


眉をゆがませながら、彼は搾り出すように、続ける。


「それに、ぼくにとってあなたが、綺麗で素敵なひとであるというブランドになっているんです。それって、ぼくが女性にいちばんしたくないと思っている、女性の物質化なんですよね。ごめんなさい、いやになったでしょう?。」

−どうして? だって、誰かを誰かと区別するのに、ラベル貼りは必要でしょう?

「…違うんです。うまく、言えない。」


そういって、また、彼は、はらはらと涙を落とす。


−なるほど、じゃあ、あなたは私がそのメンテナンスの範疇に収まってると思ってるわけ?

「…あ。…それは、頭でわかっても、からだでわかってなかったかもしれません。」

−そうでしょ? ひとりで考えてるだけだと、そうなるのよ。

「よかった。ここ数日、そのことを考えてたんだけど、でも、ちゃんと話せて、よかった。」


それから、まだ涙のあとの残る顔で、言う。


「あなたが、大切なんです。ずっと、ほかの人とつきあってるときも、あなたのことは、大切でした。もし、別れることになって友だちに戻っても、あなたは、ぼくの大切な人。」

−…私は、いまさら友だちには戻れないわ。

「…オール・オア・ナッシングっていうことですね(苦笑)。わかりました。」


それから、私を抱き締めていた手を緩め、顔を覗き込んで、こんなことも言う。


「あなたが、世界でいちばん、大切です。ぼくのあなたへのこの気持ちは、愛している、っていうことなのかもしれない。でも、愛しているっていう言葉と感覚に自信が、持てない。だから、愛している、とはまだ言えません。でも、好きです、大好き。」


あの夜、そんなふうに、甘い言葉の集中砲火を浴びたせいで、私のどこかに穴が空いて、そこから涙が漏れているのかもしれない。

彼のいない部屋で、泣いたせいで出てきた洟をかみながら、思った。

おねだり

2006年11月18日
彼の上に重なって、耳を咬んでいたら、喘ぎながら、おねだりをする、彼。


「おねがいが、あります… 舌も、使ってほしい…。」


そこで、わざと音をたてて舐めはじめたら、まるで女の子みたいな大きな声で「ああッ! ああッ! ああッ! ああッ!。」と喘ぎ続けている。


−女の子のびらびら舐めてるみたいね。

「恥ずかしいッ、ああッ! ッあ。」

−声も、女の子みたい。

「ごめんなさい…。」


責めているわけじゃないのに、なぜか謝る、彼。私に貶められることで、彼がなにになりたいのか、どうなりたいのか、私にはまだ、はっきりとはわからない。

はっきりとわかっているのは、この玩具は、反応が素晴らしく好くて、便利だということだけだ。

侵入開始

2006年11月12日
彼は何に関してもとても素直だ。優等生的というべきか。友人たちはそんな彼のことを「彼、かわいいねえ」「ピュアで品がある」と言う。彼はそういう自分への評価にいつも戸惑う。「そう見えるらしいですね。パスタを音立てて食べるし、2ちゃん語で悪態ついてるときもあるんだけど…」。

そんな彼の素直さや若さに、私は嫉妬しているのかもしれない。感じそうなところを甘咬みすれば、たちまちそこも新しい性感帯になってしまう彼。痛いときには「ちょっと痛い…」と言い、緩くすれば「ごめんね」という彼。

そんな彼も、しかし、未経験のアナルへの侵入は、なかなか素直に受け入れることができないでいた。気持ちでは、私に犯されたいと思っているのに、裏腹にそこは軽く(おそらく、緊張で逆に締まっていたのだろう)、ローションをつけているのに、小指の第二関節か、人差し指の第一関節くらいまでしか、入れることができていなかった。

それが、この週末はなぜか、ローションをそれほど使っていないのに、人差し指のほぼ根元まで、入れることができた。彼があんまり呻くので、痛いのかと何度も確認したのだが、快楽のあまりに呻き続けていたらしい。何度も確かめるたびに、私がすぐにでも指を引き抜くとでも思うのか、ふるふると首を左右に振って「気持ちいいです、大丈夫です」と言う。

最初は、入り口から奥まで侵入し、様子を確かめていたのが、中で指を振動させると、壊れた楽器のように、口を開けたまま、「あああああああ」とずっと喘いでいる彼。「おもちゃ使う?」と聞いたら、「して欲しいけど、おなかがごろごろしてきちゃいました」と言うのでやめたときには、枕に直径8センチくらいのよだれのあとができていた。

痕をつけたい

2006年11月10日
彼のミルクのように白い肌に、紅い痕をつけるのは、とても楽しい。たいていは、抱きついたまま爪で引っ掻いたり抓ったりしているうちに、すべすべでおいしそうな肌に噛みつき、歯茎と歯に伝わる肉の弾力を感じているうちに、情欲に振り回されて、自分がつけた痕を見る余裕もなくなってしまう。

ときどきは写真を撮る余裕もあるけれど、それは連日、抱き合っていて、つまりは飢えていなくて、彼に密着せずに、見下ろしながらスパンキングするような時だけだ。

さいきんは、おたがい仕事が忙しいのもあって、週末、いっしょにいるのに一度も抱き合わず、ふとそれに気づいて月曜の朝にあわただしく挿入したりしている。

チョコレートの香りのローションも届いたし、今週末くらいは、彼の背中をキャンバスにした、紅と肌色の、生きた絵を、延々と描きたい。

朝から、つい

2006年11月6日
朝から、つい
カトラリーボックスのなかのスプーンみたいに、同じ方向を向いてくっついていたら、彼が手いたずらしはじめた。厚いフリースの部屋着の上から、あっという間にわたしの胸の先を固くしてしまう。何度もくりかえし鳴る目覚ましを止め、起きなければと思いながらも、彼の手を下着の中へ引っ張り込む。

…あと2分くらいで次の目覚ましのアラームが鳴る。冷静に考えながらも、体は快楽に翻弄されている。「どうしてほしいの。」。うしろから、疑問形ではなく、耳元で、彼がささやく。

「XXXXX、ほしいの。」。さすがに時間がないからか、彼はじらすことなく、指を抜き取って、次の手順に移る。「さわって。」そう言われただけなのに、わたしは彼を口に含む。もう固くなってはいるけれど、完全に目が覚めてはいないみたいだ。

ゴムの袋を破いて、彼はわたしの頭を脚の付け根から外させる。一気に奥まで挿入してから、枕をわたしの腰の下に入れる。すると、彼が勢いよく動くたびに、子宮口まで届く。

いつも、彼は夜よりも朝のほうが、少し長い。夜もこれくらいだったらいいのに、と思っていると、「ねえ、もういっていい?。」。「うん。」。仕事がなければ、そう言いたくはなかったけれど、そう言ったとしても、堪えられる彼ではないのも、もう分かっている。

そういえば、最初のころ、「ごめんね、はやくて。もっと、って言ってるのに、いつも先に終わっちゃって。」とあんまり毎回、言うので、「そんなに気になるんならサプリとか飲む?亜鉛とか。」と言ったら、意外に素直にうなづいた彼。なので、こないだ買って渡してみたのだけど、そういえば、その後飲んでいるところを見ていない。帰ってきたら、ちゃんと飲んでいるのかどうか、ベッドの中で聞いてみないと。飲んでいなかったら… 彼のアナル開発用に買った、水色のスケルトンの細いバイブを使ってみようか。

玩具箱

2006年11月5日
出張に行く日の朝、「…空港に行きたくない。」と呻いていた彼が、昨日、帰ってきた。小さな会社で、複数の他国語が話せる技術者が彼しかいない、というか、対外交渉もできる技術者が彼しかいないせいで、彼はしょっちゅうどこかに出張している。

その出張に行くときも、帰る時も、「これから搭乗します。」とか「今帰国しました。」とか、玩具らしく、彼は自分の動静を逐一、知らせてくる。

今回の中国への出張も、そうだった。「打ち合わせが終わり、今から飲みです。」「もう1時過ぎなのにものすごく盛り上がってます。このまま朝までエンドレスで、帰りの飛行機で爆睡コースか?。」「そしてもっとも苦手な完全日本人向けキャバクラに連れてこられました(号泣)。」。

そして3時過ぎには「やっと逃れだしてきました。空調が効きすぎてのどが疲れる環境でした。ただでさえ空気悪いのに。明日早くあなたの顔を見たいです。おやすみなさい。」。朝になれば「おはよう。あと一時間で搭乗です。」「日本に着きました。」。

彼の会社では、さいきんの彼の出張中の国際仕様携帯の通話料の急激な伸びに、いぶかしんでいるのではないかと思う。

それにしても、いままで好き勝手に生きてきた彼が、なぜこんな、つながれている犬のように振舞うのか。マゾヒストとして、わたしに「所有されたい。」という気持ちのなせるわざなのだろうか。

彼は、昨日帰ってくるなり、「いなかった間のマッサージ、しましょう。」と言いながら、立ち上がったわたしをしばらくそのまま抱き締め、それからベッドに私を横たえ、いつものようにマッサージをはじめた。

脚から手の平まで、全身のマッサージが終わって、眠たくなった私が、彼のからだのあたたかさにくるまって、半分無意識に、肩を咬んだり背中を掴んだりしていたら、切なそうな顔で「あなたを舐めたい。」と言い出した。眠いから、どうなるかわからなかったけれど、したいようにさせる。

眠気が本能をむき出しにしているせいか、あっという間に舐められている脚の間はぬかるみ、声が漏れる。けれど、眠くて集中力がないせいか、なかなか達しない私に、彼は「おもちゃ使う?。」と聞く。私がうなづくと、いったん、指を抜いて、彼は準備をする。

そして、もう一度指を入れ、ピンクローターのスイッチを入れる。彼が、指を抜き差ししながら、どうやってローターを当てているのかはわからない。でも、まるで、ローターの刺激で肥大したクリトリスを、からだの内側からこすっているような感覚に、何度もいきそうになる。けれど、そのたび、左足がつりそうになり、力をゆるめていた。

結局、途中で彼が入ってきて、いったん射精したあとで、また丁寧に舐め始め、指を入れ、くちゅくちゅと音がしているからだのいやらしさを責められながらローターを当てることで、ようやく私はいくことができた。

毎日のように体を重ねていたのが、数日、間が空くと、感覚が鈍るのかもしれない。

後戯として、彼が、痕が残るほどに痛くしてほしい、と言うのだが、実際に以前と同じようにすると「…ごめんなさい、少し痛い。」と言っていたし。

それでも、また、肩や背中についた赤い丸や線を見て、「うれしい…ありがとうございます。」と、言い、今朝には以前と同じく、痛くされるほうが感じるからだに、戻っていたけれど。ようやく、玩具が玩具箱に戻ってきた感じ。

執事みたい

2006年11月1日
わたしのうちに来た彼は、彼本来の有能さで、まるで執事のように立ち働く。

朝、顔を洗ってくると、ベーコンエッグとトーストが焼けているか、お茶碗にごはんが盛られ、わたしが出勤すると食器を洗い、ベッドを整え、ゴミを出し(燃えるゴミの日にはなんと、トイレの汚物入れまでさらって)、米を研いで炊飯予約をし、わたしよりずっと専門的な仕事に出かけ、夜、帰ってくれば、肌を合わせる合わせないに関わらず、全身をマッサージして、わたしの仕事のネタ出しにつきあい、それからわたしを寝かしつける。

休日ともなれば、自分のものも含め、洗濯機を回し、ストッキング一枚まで丁寧に皺を伸ばして干し、乾いたものをたたみ、仕舞う。食材の買出しも、いちいち煩く言わなくとも、わたしの好みに応じたものを買ってくるようになった。

このままでは、わたしは、仕事と、趣味の範囲のような夕食作り以外、なにもできなくなってしまうのではないだろうか、とさえ思う。

それに加えて、朝起きれば

「朝、目が覚めて、あなたが横にいることが、こんなに幸せだなんて。」

とか、ただ単に、頬を触りながら髪をかき上げてキスを繰り返したり、夜にはわたしがマッサージされながら

−わたしは同じことをしてあげられないのに、どうして毎日そんなにケアしてくれるの?

と聞けば、

「同じことしてほしいなんて、思ってない。」

と、うっとりとわたしの手や腕をマッサージしながら、甘い言葉を言う。

おかげで、わたしは、すっかり甘い空気の中毒になってしまったらしい。彼が出張でいない日は、夜には必ずスカイプか携帯に連絡が来ると知っていても、ついつい甘いものに手が出てしまう。

マッサージのときに、果物やチョコレートの甘い香りに包まれている、条件付けのせいかもしれないけど。

平和な関係

2006年10月22日
精神的な問題は去り、心配してくれていた女友達に打ち明け終えたら、彼女が言った。


「で、彼とは、どうなの?。」

−どう、って。そりゃ長年の友人だから、愛はあるけど。でも恋心はないわよ。

「あら、でも彼は舞い上がってる感じだけど?。」

−不思議よね、どうしてよく知ってる相手にときめくことができるのかしらね。

「男の人って、そういうとこ、未分化なんじゃないの? 発情と恋が分かたれてない、っていうか。」

−ああ、そうなのかもね。


そう、わたしは彼には、発情はするけれど、恋は、していない。そういう意味では、感情的には、とても穏やかな日々だ。わたしのプライベートな感情生活は、平和だ。

こういう穏やかな男女関係は、はじめてなので、正直に言えば、すこし、戸惑っている。

そして、感情の波に翻弄されるような、恋の感覚を、また自分が求め始めてしまうのではないかと、恐れている。

肌色の抽象画

2006年10月21日
季節の変わり目のせいか、疲れ切って積極的に虐めたり虐められたりする気力もなく、ベッドに倒れこんで眠る日々だった。

が、やはり完全にマゾヒストになってしまった彼にとっては、そばにいながらも、乳首を弾かれたり、肌を爪で引っかかれる程度では不満だったらしい。昨夜、風呂上りのわたしの肌に、クリームを塗り込み、マッサージしただけで、わたしが眠り込んでしまったせいか、今日は朝早くから、キスで起こされた。

持ち帰りの仕事も手付かずで、充分以上に眠ったのに、まだだるいわたしは、それでもまだ、彼を虐める気が起きなかった。そのわたしの体を、隅々まで触り、どんどん脱がせながら、舐め回す、彼。途中で、「がまんできない。」とつぶやいて、自分のTシャツを脱ぎ、一方的にわたしに奉仕しているだけなのに、すでにじっとりと汗ばんだ肌を、わたしの上に重ねる。「ああ。」彼の喉から、心地よさげな喘ぎ声が漏れる。

今まで肌を合わせた相手、ほとんどすべてに言われてきたことだが、わたしの肌は、ただ触れているだけ、ただ重なり合っているだけでも、その感触がエロティックなのだそうだ。彼もまた、わたしの肌を気に入ったひとりになったらしく、脚のマッサージをしながら、「あなたのふくらはぎは、うっとりするほど真っ白ですねぇ。」などと言うようになった。

そして、わたし自身も、肌のすべりがよいことが、相手を選ぶ基準になっているので、そうした相手とぴったりとくっつきあって、体の表面で官能を感じることに、喜びを感じる。

男性のなかには、そういった時に、自分が汗をかいていると、なぜか謝る手合いが多い。わたしは、相手が汗をかいていると、そこまでわたしに興奮しているのか、と、ちょっとした優越感に浸りながら、感動しているので、なぜ、男性がその時の汗を謝るのか、よくわからないでいる。

さて、最近のサディストとしての調教の結果、彼は少しばかり言葉責めができるようになった。今朝、受動的にしかする気がないわたしは、その成果を味わう。下着のいやらしさを責められたりしながら、彼の指の動きを味わう。痛くなってきたのでやめてもらい、横に寝ている彼の乳首と腹を触っていたら、彼にねだられる。「背中を、虐めてください。」

うつぶせにさせて、腿の上にまたがり、思い切り噛み付き、引っ掻き、引っぱたく。みるみるうちに、彼の白い背中に、赤い肌色の模様が描かれていく。


−ねえ、痛い?

「気持ちいいです。」

−痛いことされてるのに、気持ちいいんだ?

「…はい。」

−変態(笑)

「はい、変態の、マゾヒストです。あなたの爪が、食い込んでくるのが、たまらなく、気持ちいい…。」


息も絶え絶えな彼の答えを、そこまで聞くと、わたし自身のなかも、また潤ってくるのがわかる。虐められているくせによがっている彼の姿に欲情するわたしもまた、変態だ。

彼の背中の肌色の絵を携帯で撮り、その場で見せる。「ああッ。」と呻いて、また明らかに昂まっているのがわかる。面白い。しかしそれは、実験結果のような面白さで、恋の化学変化を面白がるという、それではない。

恋の化学変化という点では、日増しにのめりこんでくる彼の様子を、厄介なことになるかもしれない、と思っているわたしは、相変わらず性愛の点で、彼を玩具としか思えていない。

だから、「見てるから自分でしなさい。」と命令して、慣れない彼が、やわらかいままで謝っても、とくにどうということはない。これが、普通の恋愛の相手であれば、どうして欲情しないのかと、不機嫌になるはずだが。

終わってみれば、起きてからかなり長い時間、遊んでいたように思っていたが、まだお昼になっていなかった。「おなかが、すいたわ。」というと、彼が「なにか作りましょうか?。」と言うので、トーストにりんごのジャムを塗ってほしいと言うと、パンを焼き、ジャムを塗り、さらにそれをひとくち大に千切って、眠るわたしの口に運んでくる。

こうしたささいな日常で、如何なく発揮される彼の愛情を、深く感じれば感じるほど、友人関係を離れると、彼を性愛玩具としてしか思えない自分を感じる。

まったく愛していないわけではない。むしろ、友人としては愛している。しかし、恋人とは思えない。なぜなら、わたしは彼に恋をしていないからだ。

このことは、いろいろなかたちで彼に言ってきたが、彼は、こう言うだけだった。

「それでも、いいんです。玩具でいいから、そばにおいてください。」

玩具でいいから

2006年10月14日
何度目かの行為のあと、彼はわたしの指にキスをしながら、言った。


「もう、この爪と指がないと、ほんとの快感を得られなくなってしまった…。」

−自分でもこんなにマゾだとは思ってなかった?

「ぜんぜん、予想もしてませんでした。」

−もうすっかりカスタマイズされちゃったのにね。

「ほんとに。あなたにしか、虐めてほしくないです。でも、玩具でいる間は、甘えさせて?。」


そう言って、彼は後ろからわたしの肩を抱く。


−甘えるって、どんなふうに?

「こういうふうに、いちゃいちゃさせてほしいって意味です。」


恥ずかしそうに言う唇が、かわいらしい。


「私は、この一ヶ月でもうあなたしか目に入らなくなってしまった。たぶん、寝ていなくてもおなじだったでしょう。」

−どうして?

「あなたが魅力的だからですよ。」

−ありがと(笑)


そんな甘い会話の間に、急にすうっと背筋が寒くなるようなことも、言う。


「ねえ、玩具はどうやって捨てるんですか?。」

−ん? 捨てたことは、ないわよ。10年前の浮気相手とか、今では友だちだし。

「じゃあ、使わないときの玩具は玩具箱の中で待ってていいんですね?。」

−そうね。でもあなたとわたしの関係は、それだけじゃないでしょ?

「食事したり、映画見に行ったり?。」

−そう。


おそらく、このときの彼は、新しく足を踏み入れてしまった快楽の領域に戸惑って、玩具としての覚悟が定まっていなかったのだと思う。


わたしが精神的なトラブルからの逃避と気晴らしで、彼に手を出したことは、彼本人もわかっていた。だから、彼との行為が、気晴らし1割、ストレッチ1割、依存8割になりそうでこわい、と話すと、彼は即座に、こう言った。


「一回、一緒に寝るの止めます?もちろん側にはいますから。気晴らし10%悩み80%なら、ここでお互い自制したほうがいいかも。」

−ほんとは最初からこうしちゃいけなかったのにね。今となっては、そうできるかわからない。できそうもない。

「ごめんなさい、私が最初にあなたの髪を触ったりしなければ、こんなに苦しめることもなかったんですよね。」

−それに関しては、誰が悪いとかはないのよ、たぶん。あなたも悪くないし、わたしも悪くない。だから、そういうふうには考えないで。

「ありがとう、そう思ってくれて。でも、私はあなたと寝るのをやめるだけなら平気だけど、会えなくなるのはいやです。あなたがほかの誰かと関係をはじめても、以前みたいに、食事したり、映画を見に行ったりはしてくれますか?それで、時々、帰りがけに抱き締めさせて。それで、やっていけると思う。」

−わたしも、あなたに会えなくなるのは嫌。

「よかった…。あなただけは、失いたくない。寝るとか寝ないとか関係なく、あなたに会えなくなるのだけは、嫌なんです。」


こんなふうに、玩具としての覚悟ができてきたように見えた彼だが、その後も、微妙に心が揺れ動いている。


週末の朝、彼と抱き合ってゆるゆると過ごしていた。その時にふと、口をついて出たのは、こんな言葉だった。


−あなたに恋できたら、お互いラクになれるのにね。

「でも、あなたは私だけじゃ満足できないでしょう。私も応え切る自信がない。だから、そうなったら他の男を作ってもらわないと、乗り切れないかも。それに、あなたは1対1の関係が苦手なんじゃないですか?。」

−そんなことないわよ、付き合い始めると数年単位で長いし。

「そうでしたね。」

−つまみ食いとかは、あったけど。

「それは、まあ、わかってます。」


そのまま、無言で抱き合っていたら、彼はいきなり、泣き出した。


−なに? どうしたの?!

「…ごめんなさい。あとで、説明します。」


そう言って、ひとしきり泣いたあと、彼は言った。


「あなたの気晴らしのためにいるはずの自分が、あなたを苦しめるようなことを言ってしまうほど、自制できなくなっている、その自分が憎くて。あなたを苦しめている問題も憎いし。でも、そんなふうに考えてもなにも解決しないと思ったら…。」

−わたしを苦しめるようなことって?

「昨日、『あなたが欲しい』って言ってしまって。ほかにも、いろいろ。まだ、あなたは問題をかかえているのに。ごめんなさい。」


そういえば、そうだった。そして、わたしはそれになんと答えていいものかわからず、曖昧に笑ってかわしたのだ。

彼は、思った以上にこの関係に嵌まり込んでしまったらしい。思い返してみると、睦みあっている最中の彼のことばは、すでに恋に狂っている者のそれだ。


「玩具でいいから、そばにおいてください。」

「あなたとこうなってからは、モチベーションがすごく持続する。やっぱりあなたはあげまんなのかも。」

「ああ、その強い目で見つめられながら、爪を立てられていると、体も心も、溶けてしまいそう。もう、めろめろです。」

「山田詠美の小説で、『心と体が両方感動すると、男は好きな女に対してインポになる』って内容があったけど、今、それがわかりました。」

「あなたになにか、プレゼントとか、しようと思うと、『足りない!』って言われるのが怖くて、つい過剰になってしまうんですよね。歴代の恋人も、そうだったんじゃないですか?。」

「あなたのねだり方は、他の女とぜんぜん違う。ものすごく、そそる。もう、他の女となんて、できない。」

「その強い目で見つめられると、私は恐れおののくことしか、できない。あなたは、綺麗です。」

「朝起きて、あなたが横にいることが、こんなにしあわせだなんて。」


ほんとうに、彼に恋できたら、どんなにしあわせなことか。しかし、彼が国外に移住を考えていて、期間限定の恋人にしかなりえないことを考えると、そう思い切ることもできない。

そして、彼はこんなことも言う。


「私は最高のものが少しあれば、それでいいんです。音楽でも、アートでも。そして、あなたは女として最高の部類に入る。綺麗で、自分の意見があって、人との対話が楽しめて、虐めるのが巧くて、感度がよくて好く締まって。だから、あなたとのこの関係がいずれ終わっても、その間のことを反芻することで、わたしは生きていける。でも、今の関係が終わっても、会えなくなるのはいやです。時々、前みたいに食事をして、できれば時々は抱き締めて、キスさせて。そして、ああ、時々でいいから虐めてください。」


ああ、あなたはすっかりわたしのおもちゃになってしまった。わたしは、それでは1対1で付き合うのに、物足りないというのに。

発端はトラブル

2006年10月8日
わたしがマゾ調教する男は、現在性能を点検中の玩具が最初ではない。ただ、今まで調教してきた男と異なるのは、彼のセックスにおける精神構造が、ほとんど完全にマゾヒストである、ということだ。

これまで調教してきた男は誰でも、男性的に女性を攻める、という実にヘテロ的な性的志向を持っていた。ある意味で、いつでもそうした男性的な態度に戻ることができるため、こちらも安心してマゾ的な部分を開発できていた。むしろ、そのためにサディスティックに言葉責めをすることができる男性をターゲットにしていた、と言ってもよい。

なぜなら、わたし自身も、サディストである反面、マゾヒストでもあるからだ。このわたしの性向が、マゾヒストとしての自分がされたいことを、サディストとして相手に施す、というかたちで調教を成功させてきた。

さて、それでは彼はどうか。彼は、数年来、わたしを尊敬の念で見ていた、と告白し、奉仕はしたいが、サディスティックにわたしを扱うには攻撃性がわかない、と言う。わたしを貶めたり、精神的にも肉体的にも痛めつけたりすることはできない、というのだ。

困った。わたしは、相手を虐めるのも好きだが、それより以上に、自分の精神が追い詰められるような切迫感のある、あの、虐められる快感が必要なのだ。

困っていることは、ほかにもある。わたしと彼は、友だちであったので、今の関係になってから、どう距離を詰めればいいのか、わたしには、じつのところ、よくわからないのだ。

彼のほうは、なぜか、この新しい関係性のなかでの振舞い方を、すでに感得してしまっている。


そもそも彼がわたしのとなりに横たわるようになった、そもそもの発端は、わたしが物理的に距離を詰めたことにあった。詳細は省くが、わたしは、とある出来事から、精神的にすっかり疲弊して、ひとりでは恐怖に苛まれて眠れないために、彼の家へ家出をした。

とはいえ、わたしたちはずっと、別のベッドで寝起きし、性的な接触もなく過ごしてきた。変化が起こったのは、精神科の薬の効果が出て、ひとりでも過ごせるようになったわたしが「明日、帰ります。」と彼に告げた翌朝だった。

その朝、目が覚めると、いつの間に部屋に入ってきていたのか、ベッドのふちに彼が腰掛けて、微笑みながらわたしをじっと見ていた。

「おはようございます。よく眠れましたか?。」

そう、わたしに問いかけたあと、彼はいつもどおり、わたしの肩や背中をマッサージしはじめた。気持ちがよくて、またうとうとしてきた時に、彼がわたしの横に、ゆっくりと体をよこたえた。


枕に頭を乗せたわたしのとなりで、彼は枕の下に頭を起き、わたしの顔を、やや見上げながら、頬に触れてくる。

悩み事があって駆け込んできているのに、また新たに火種を増やそうというのか、と、腹立ちが起こり、つっけんどんに、なに? と言うと、「きれいな顔だなあと思って。」と、動じない。

さらに、からだの位置をずらし、わたしの頭を抱え込むようにして、髪を撫でる。これにも、無愛想に、なに? と言うと、「女の人の髪をさわるの、好きなんですよ。」と、平然と言い放つ。同時に、わたしのくちびるに、彼の指が触れる。


「おいしそうなくちびる。」

−毒入りかもよ。

「毒入りのほうが、おいしかったりするんですよ。」


そこで、わたしはあからさまに不快な顔をした。そのせいか、彼がこの日、それ以上、駒を進めることはなかった。わたしたちが肌を合わせるのは、「唇のスペック」で書いた日のことである。

唇のスペック

2006年10月7日
朝、目覚めると、どちらからともなく唇をむさぼり合う。玩具の下唇を口に含んだり、ちらちらと動き回る彼の舌をとらえようとしたり、ひとしきりじゃれ合うと、すでに彼はうっとりとした目になっている。


「あのとき、はじめてキスを返してくれたときに、とろけてしまいました。とろけそう、じゃなくて、ほんとうに。」

−そうなの? でもふつうのキスしかしてないわよ?

「ふつうのキスじゃなかったですよ。だって、ぼくの歯茎の裏まで舐めてくれたでしょ? あんなキスは、はじめて。」

−そう?

「うん。それに、すごく、美味しかった。」


そういう玩具の唇も、やわらかく、ぷっくりとしていて、美味しい。止めろと言うまで、いつまででもわたしの脚の付け根に陣取り、その唇で舐め続けるのが、彼の流儀らしい。それは、彼が自分をマゾとは自覚していない、最初のときからそうだった。

いつもどおり、肩から手の平、ふくらはぎに足の裏までまんべんなくマッサージしてくれたあとに、循環がよくなってうとうとしているわたしの横に、「ぼくも眠くなってきました。」と寝転がる。しばらくして、ふと、お互いの手が触れたとたん、彼は指を絡ませてわたしの手を握り締め、自分の胸元へ引き寄せた。

しばらくして、軽くキスされるのを感じて目を開ける。上気して内側から輝いているような肌をして、うっとりとした目で、微笑んで、じっと見つめながら、彼は言った。


「こんなに大切な気持ちになったのは、はじめて。」


興奮しているのか、恥ずかしいのか、かすれたような声だった。ああ、やはり、こういうことになってしまったかと思いながら、同時に、じゃあ、その気持ちを翻弄してやろうかという気持ちが芽生え、本気で攻めるキスを返した。

向かい合って抱き合い、一回ごとにキスの時間が長くなっていきながら、お互いの背中に、腰に、手を回し、わたしたちは抱きしめ合う。

彼の色白でうつくしい肌に直に触れたくなり、Tシャツをたくし上げて、手を差し入れる。そして、軽く爪を当てたまま、なにかの文字をなぞるように、上から下、横、また下から上へと手を滑らせていると、彼が吐息と共に吐き出すように、言う。


「なんで、そんなことが、できるんです?。」

−どういうこと?

「背中、すっごい感じる。ただ触られてるだけなのに… なんで?。」

−こんなことぐらい、どんな女の子だってするでしょ?


返事はなかった。話している間も止めなかった、わたしの手の動きに、感覚をゆだねているらしい。ピンと来た。あら、この子、マゾかもしれないわね、と思いながら、今度は胸側のTシャツをたくし上げ、乳首を攻める。

思ったとおり。情けない声を抑えることもしないで、喘いでいる。でも、最初に肌を合わせるときに、急ぎすぎてはいけない。もっと、観察しなければ。そう思っていると、彼はわたしを横たわらせ、おなかを上から下に舐めている。そして、ショーツのラインに沿って舌を這わせたあと、こう、切り出した。


「脱がせてもいい?。」

−ん、でももうすぐ生理だから、生理用品がついてて…。


そう、わたしが言うと、照れたような、むくれたような顔で、「なあんだ。」と、体を起こして、またわたしを抱き締める。意外な諦めの早さに、なぜかわたしはうろたえる。


−でも、まだだから、外してもいいわよ。

「ほんと?。」


言うやいなや、ショーツを脱がせ、彼はわたしの脚の間に滑り込み、唇と舌を使い出した。まるで、キスしているときのように、やわやわと、あのぷっくりとした唇が、わたしのそこを、舐め、口に含み、引っ張りなどしていく。

けれど、その感触があまりにやわやわとしているのがもどかしい。けれど、サドでもあり、しかしマゾでもあるわたしには、そのもどかしさが、より大きな快感を引き寄せる。気づくと、彼の舌がわたしの入り口をノックするごとに悶え、汗まみれになって、声をあげ続けていた。


わたしはもともと、外からの刺激だけでは達することができない。そこで、彼に指を入れてもらい、引き続き、唇と舌も使ってもらう。

彼の、長くすんなり伸びたうつくしい指が、わたしのなかに入っているということを思って、うっとりするような余裕は、なかった。彼の指先は、確実にわたしの核心を突いている。その感覚を芯に、彼の唇と舌からもたらされるやわやわとした快楽がまとわりついていき、わたしははじめて肌を合わせた男に、簡単にいかされてしまった。

わたしのなかが、完全にその快楽をむさぼりきるのをじっと待ってから、彼は指を抜き、体を起こして、わたしを抱き締める。


「気持ちよかった?。」


まだ、まともに息をつけず、こくりとうなづいたわたしの髪を、彼は梳くようにして撫でる。それから、抱き締め合ったまま、指をふたたびわたしの脚の付け根へと伸ばす。わたしも、彼の脚の付け根に手を伸ばし、電車のポールにつかまるように握る。そうしていないと、どうにかなってしまいそうだった。そのわたしの顔を見ながら、彼が聞く。


「痛くない?。」

−…気持ちいい。


達したばかりなのに、また快楽が湧き出てくる。まるで汗のように湿ってしまったそこが、彼と繋がりたくて内側から動いている。


−ねえ、お願い…

「ん? なあに?。」

−お願いだから、入れて。

「ふふ、なにを?。」


これ! と言って、握った手に力を込めると、くすりと笑って、「ちょっと待ってね。」と彼はベッドから離れる。ふだんは敬語に「さん」付けなのに、口調が変わっている彼を見て、わたしと同じく、サドでもあるのかしら、と思う。

ベッドに戻ってきた彼が、またわたしの髪を愛撫する。でも、それきりなにも言わない。舐めてほしいのかと思い、言えばいいのに、と心でつぶやきながら、舐めはじめる。すぐに、「ありがと。」と言ってやめさせ、ゴムをつけると、繋がる。終わったときには、ふたりとも汗だくで、また、長いキスをした。

リリース

2006年10月2日
昨夜も、締め切りが迫っている仕事を抱えた彼は、遅くにうちに来た。疲れているにもかかわらず、いつもどおりわたしの首を揉み、背中を揉み、脚を揉み、それがわたしの体に眠気を流し込むと同時に、情欲を呼び覚まし、ゆるゆると戯れているうちに、もう、3時だった。

もっとも、彼にとってはゆるゆるではなかったようだ。昨日は、脇腹からおなかにかけてが、ことのほか、感じたようで、そこに爪を這わせ、あるいは摘んでいると、間断なく漏れてくる声が、だんだんと高くなっていく。

そのうち、顎を反らせて、息継ぎもできずに声を漏らしていたせいか、彼は懇願しはじめた。


「やめて。もうやめて。玩具は壊れてしまいます。」

「こわい。暴走しちゃいそうです。」

「どうなるかわからない。こわい。ねえやめて。」


わたしの手を押さえようとする彼の手首を掴んで、だいじょうぶ、脳でイクだけだから、暴走しても大丈夫よ、と言っても、彼は身を捩って、やめさせようとする。泣き声みたいな心細そうな声で懇願するので、やめるしかなかった。

「おかしくなりそうでした。自分でこんな高い声が出るなんて、思いませんでした…。」

終わってから、呆然とした態で、彼はつぶやいた。いつもは真っ赤になるのは背中なのに、昨日は、胸からおなかまでの体の前側が、無数の爪痕で、赤く染まっていた。そして、一度達したあとだったのに、仰向けに横たわる彼の先端からは、腰骨の下まで露が伝い、密着していたわたしが体を離すと、それは長く糸を引いてシーツを濡らした。

それを指摘すると、「また淫乱になっちゃいます。」と言う。あんな声出しといて、淫乱じゃないとでも思ってたの? と言うと、諦めたように彼は笑い、「わたし、明日ちゃんと納品できるのでしょうか。」と言った。

それなのに、朝、目覚めてからも、彼はわたしに乳首と脇の下を弄られ、爪を這わされ、また感じている。朝だから、という理由ではなく硬くなった彼のそれに、下着の上から触れると、「ダメ、仕事に行けなくなっちゃう…。」と言っていたのに…。

それから、彼を3回ほどに分けて玩んでいるうちに、とうとうわたしも手を出されてしまった。わたしのなかに潜り込んだ彼の指が、的確にその場所を突付き始める。そこは、すぐにどろどろに溶けていく。

彼が、わたしの上半身を自分の膝の上に載せ、左手の指をわたしのそこに挿し入れて、じっとわたしの表情を見ているのがわかる。

「いやらしい。ねえ、腰が動いてるよ。そんなに気持ちいいの?。」

これを、見た目は冷酷なサディストにしか見えない、色白な顔にかたちのいい眉、切れ長の目、酷薄そうな笑いを湛えた唇で、眼鏡越しに観察しながら彼が言う。

最近のサドとしての調教の成果で、彼はS:10%、M:90%ほどになりつつある。その割合としては低い嗜虐性をもっと引き出したくて、もっとたくさん快楽と羞恥を与えて、その間でわたしを引き裂いてほしいという欲望が湧き上がり、動き続ける彼の指を締め付ける。

彼の指で達するときは、頂点はとてもスローにやってきて、スローなまま、去っていく。最初は、自分が達したのかどうか、よくわからなかったほどだ。

しかし、このときは、電気式の大人の玩具でのときのような、烈しい感覚が一瞬、沸き起こった。その、生身による久しぶりの感覚で、わたしは、彼があわただしく仕事に向かったあと、ひとりの部屋で不安定な気持ちになっている。

平手打ち

2006年9月24日
両手首を拘束し、目隠しをする。色白で痩せた、長身の彼の体は、こういう格好が実に絵になる。首筋から胸、腹、わき腹へと舌と爪を這わせる。んああ、という、30過ぎの男が出しているとは思えないか細く甲高い声が、断続的に漏れてくる。

快楽でからだをよじりながら、次第にうつぶせになり、自分の性器をシーツにこするようにして、ちょっとした刺激にもびくびくと肌をふるわせる、私の玩具。

それだけ聞いても、セクシーでもなんでもないよがり声をもっと上げさせたくなり、なめらかな背中に爪を立て、何度も引きおろす。蚯蚓腫れのようなあとが、あっという間にふえてゆく。ときおり、形よく引き締まったヒップにも爪を立て、噛む。


「背中を」

−ん? なあに?

「背中を、たたいて、ください。」

−ふうん、どうしてそんなことされたいの?

「あなたに、貶められたい。」

−玩具だから?

「…はい。」


そして、週末の日差しのなか、平手打ちの乾いた音が、響く。ひとつ、音がするたびに、馬乗りになった背中の下から、情けない喘ぎ声が聞こえてくる。体をずらして、ヒップにも平手打ちを続ける。

やがて、すっかり赤くなってしまった背中に満足して、携帯で写真を撮る。シャッター音に、彼がまた感じているのがわかる。

拘束を解きながら、だいじょうぶ? と声をかけると、

「まさか、ほんとに痛みが快感に変わるなんて、思ってなかった。ものすごく、気持ちよかったです。」

終わってから、先ほどの写真を彼の携帯へ送り、私のほうからは消去する。気づくと、シーツの彼の性器が触れていた部分に、シミができていた。

リバ

2006年9月19日
リバ
台風を言い訳にして、こもりっきりで、彼と過ごした週末。夜、丑三つ時まで抱き合って、朝、目覚めてお互いの体に舌と指を這わせる。そんな三日間だった。

ベッドが出られないプールであるかのように、お互いの体に溺れて、しがみつき合って過ごしたせいか、彼も、私が彼を虐めたあとをトレースするようにするうちに、ようやく私を巧く虐められるようになってきた。ある夜、交互に、手首を拘束し、目隠しをし、ローションを塗って遊ぶ。


「ねえ、あなたは今はサディストなの?マゾヒストなの?。」

−変態の、マゾヒストです。

「ふうん、じゃあ、なにをして欲しいか言わなきゃ。」

−ローションを、使って、ください。

「よく言えたね。」


私が彼に使ったのと違う香りのローションを、乳首のきわに垂らして、彼は、また言葉で嬲る。笑いが含まれている声音に、ローションのぬるりとした感触とは別に、ぞくりとする。そして、携帯のシャッター音が響く。


「変態さんのいちばんいやらしいところ、撮ってあげたよ。どう?自分の携帯でこんなところ撮られる気分は?。」

−…ありがとうございます。

「どう、って聞いてるのに。言えないの?おしおきしなきゃね。」


そう言うと、彼は私の体の向きを変え、お尻に手を振り下ろす。痛みが痺れて快感に変わる瞬間ごとに、声が漏れ、内側が濡れてくるのがわかる。


「あーあ、こんなにぬるぬるにしちゃって。お仕置きの意味ないね。」


そう言いながら、張り手の痕がついているであろうお尻に、彼は携帯カメラを向ける。仕事柄、彼はフィルムの入ったカメラも、私のものより高性能な携帯を持っているのに、「あなたが、画像の心配をしないですむように。」、と、私の携帯でしか、こういった写真は撮らない。私が彼の写真を何で撮るかは、まったく関知しないのに。

それから、まだじんわりと痺れているお尻に、彼がローションを塗り始める。その手は、だんだんお尻の間へと入っていき、アナルに到達すると、彼の指が、ゆっくりと中へ入ってくる。第二関節くらいまでしか入っていないと感じるのに、彼は言う。


「いやらしい。もう全部、根元まで入っちゃったよ。」

−うそ。

「うそじゃないよ、写真、撮ってあげるね。」


そうして、指を入れられたまま、濡れたところは剥き出しの私の姿を、彼は撮る。


「ねえ、ふつうはこんなとこ、気持ちよくないんだよ?なにぴくぴくしてるの。」

−ごめんなさい、気持ちよくって。

「淫乱(笑)」


そう言いながら、彼はゆっくり、指を動かす。私は、おなかのなかをかきまわされるようなその感覚と、彼のあの、美しく長い指が、根元まで私のなかに埋まっているところを想像して、ますます濡れてくる。

そして、まだ、私の小指の第二関節までも入りきらない、彼のアナルに、いつか、私の人差し指が、根元まで入ることを思って、興奮する。人差し指が入るようになれば、少しずつ拡張して、ペニスバンドで犯されたい、というのが、彼の今の時点での、究極の希望らしい。

私も、私の下で犯されて喘ぐ、彼の姿を、見てみたい。

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