発端はトラブル

2006年10月8日
わたしがマゾ調教する男は、現在性能を点検中の玩具が最初ではない。ただ、今まで調教してきた男と異なるのは、彼のセックスにおける精神構造が、ほとんど完全にマゾヒストである、ということだ。

これまで調教してきた男は誰でも、男性的に女性を攻める、という実にヘテロ的な性的志向を持っていた。ある意味で、いつでもそうした男性的な態度に戻ることができるため、こちらも安心してマゾ的な部分を開発できていた。むしろ、そのためにサディスティックに言葉責めをすることができる男性をターゲットにしていた、と言ってもよい。

なぜなら、わたし自身も、サディストである反面、マゾヒストでもあるからだ。このわたしの性向が、マゾヒストとしての自分がされたいことを、サディストとして相手に施す、というかたちで調教を成功させてきた。

さて、それでは彼はどうか。彼は、数年来、わたしを尊敬の念で見ていた、と告白し、奉仕はしたいが、サディスティックにわたしを扱うには攻撃性がわかない、と言う。わたしを貶めたり、精神的にも肉体的にも痛めつけたりすることはできない、というのだ。

困った。わたしは、相手を虐めるのも好きだが、それより以上に、自分の精神が追い詰められるような切迫感のある、あの、虐められる快感が必要なのだ。

困っていることは、ほかにもある。わたしと彼は、友だちであったので、今の関係になってから、どう距離を詰めればいいのか、わたしには、じつのところ、よくわからないのだ。

彼のほうは、なぜか、この新しい関係性のなかでの振舞い方を、すでに感得してしまっている。


そもそも彼がわたしのとなりに横たわるようになった、そもそもの発端は、わたしが物理的に距離を詰めたことにあった。詳細は省くが、わたしは、とある出来事から、精神的にすっかり疲弊して、ひとりでは恐怖に苛まれて眠れないために、彼の家へ家出をした。

とはいえ、わたしたちはずっと、別のベッドで寝起きし、性的な接触もなく過ごしてきた。変化が起こったのは、精神科の薬の効果が出て、ひとりでも過ごせるようになったわたしが「明日、帰ります。」と彼に告げた翌朝だった。

その朝、目が覚めると、いつの間に部屋に入ってきていたのか、ベッドのふちに彼が腰掛けて、微笑みながらわたしをじっと見ていた。

「おはようございます。よく眠れましたか?。」

そう、わたしに問いかけたあと、彼はいつもどおり、わたしの肩や背中をマッサージしはじめた。気持ちがよくて、またうとうとしてきた時に、彼がわたしの横に、ゆっくりと体をよこたえた。


枕に頭を乗せたわたしのとなりで、彼は枕の下に頭を起き、わたしの顔を、やや見上げながら、頬に触れてくる。

悩み事があって駆け込んできているのに、また新たに火種を増やそうというのか、と、腹立ちが起こり、つっけんどんに、なに? と言うと、「きれいな顔だなあと思って。」と、動じない。

さらに、からだの位置をずらし、わたしの頭を抱え込むようにして、髪を撫でる。これにも、無愛想に、なに? と言うと、「女の人の髪をさわるの、好きなんですよ。」と、平然と言い放つ。同時に、わたしのくちびるに、彼の指が触れる。


「おいしそうなくちびる。」

−毒入りかもよ。

「毒入りのほうが、おいしかったりするんですよ。」


そこで、わたしはあからさまに不快な顔をした。そのせいか、彼がこの日、それ以上、駒を進めることはなかった。わたしたちが肌を合わせるのは、「唇のスペック」で書いた日のことである。

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