リリース

2006年10月2日
昨夜も、締め切りが迫っている仕事を抱えた彼は、遅くにうちに来た。疲れているにもかかわらず、いつもどおりわたしの首を揉み、背中を揉み、脚を揉み、それがわたしの体に眠気を流し込むと同時に、情欲を呼び覚まし、ゆるゆると戯れているうちに、もう、3時だった。

もっとも、彼にとってはゆるゆるではなかったようだ。昨日は、脇腹からおなかにかけてが、ことのほか、感じたようで、そこに爪を這わせ、あるいは摘んでいると、間断なく漏れてくる声が、だんだんと高くなっていく。

そのうち、顎を反らせて、息継ぎもできずに声を漏らしていたせいか、彼は懇願しはじめた。


「やめて。もうやめて。玩具は壊れてしまいます。」

「こわい。暴走しちゃいそうです。」

「どうなるかわからない。こわい。ねえやめて。」


わたしの手を押さえようとする彼の手首を掴んで、だいじょうぶ、脳でイクだけだから、暴走しても大丈夫よ、と言っても、彼は身を捩って、やめさせようとする。泣き声みたいな心細そうな声で懇願するので、やめるしかなかった。

「おかしくなりそうでした。自分でこんな高い声が出るなんて、思いませんでした…。」

終わってから、呆然とした態で、彼はつぶやいた。いつもは真っ赤になるのは背中なのに、昨日は、胸からおなかまでの体の前側が、無数の爪痕で、赤く染まっていた。そして、一度達したあとだったのに、仰向けに横たわる彼の先端からは、腰骨の下まで露が伝い、密着していたわたしが体を離すと、それは長く糸を引いてシーツを濡らした。

それを指摘すると、「また淫乱になっちゃいます。」と言う。あんな声出しといて、淫乱じゃないとでも思ってたの? と言うと、諦めたように彼は笑い、「わたし、明日ちゃんと納品できるのでしょうか。」と言った。

それなのに、朝、目覚めてからも、彼はわたしに乳首と脇の下を弄られ、爪を這わされ、また感じている。朝だから、という理由ではなく硬くなった彼のそれに、下着の上から触れると、「ダメ、仕事に行けなくなっちゃう…。」と言っていたのに…。

それから、彼を3回ほどに分けて玩んでいるうちに、とうとうわたしも手を出されてしまった。わたしのなかに潜り込んだ彼の指が、的確にその場所を突付き始める。そこは、すぐにどろどろに溶けていく。

彼が、わたしの上半身を自分の膝の上に載せ、左手の指をわたしのそこに挿し入れて、じっとわたしの表情を見ているのがわかる。

「いやらしい。ねえ、腰が動いてるよ。そんなに気持ちいいの?。」

これを、見た目は冷酷なサディストにしか見えない、色白な顔にかたちのいい眉、切れ長の目、酷薄そうな笑いを湛えた唇で、眼鏡越しに観察しながら彼が言う。

最近のサドとしての調教の成果で、彼はS:10%、M:90%ほどになりつつある。その割合としては低い嗜虐性をもっと引き出したくて、もっとたくさん快楽と羞恥を与えて、その間でわたしを引き裂いてほしいという欲望が湧き上がり、動き続ける彼の指を締め付ける。

彼の指で達するときは、頂点はとてもスローにやってきて、スローなまま、去っていく。最初は、自分が達したのかどうか、よくわからなかったほどだ。

しかし、このときは、電気式の大人の玩具でのときのような、烈しい感覚が一瞬、沸き起こった。その、生身による久しぶりの感覚で、わたしは、彼があわただしく仕事に向かったあと、ひとりの部屋で不安定な気持ちになっている。

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